新宿ゴールデン街の裏路地は、深夜になるほど活気を増す。埃っぽい倉庫の奥で、大古(おおふる)は懐中電灯の光を一点に集めた。手のひらにあるのは、ロレックス「ディープシー・チャレンジャー」のレプリカだ。
「防水テストは?」
ロシア人らしい男が低い声で問う。大古は無言で水槽を指さす。ロレックス コピー時計は水中で淡々と秒針を刻み続けるが、彼の目は水面に浮かぶ微細な気泡を捉えていた。
「…深度3000mのプレッシャーには耐えられん」
彼が時計を引き上げると、ガラス裏側に霧がかかっていた。
「本物のRLXチタンはこうはならない。この素材は」、指でケースを叩きながら、「重さが3%軽すぎる」
男が舌打ちする。
「工房は完璧だと」
「工房は嘘をつく。数字はつかない」と大古は冷たく返す。「真実はここにある」と彼はルーペを差し出す。針先が指すネジ頭部には、肉眼では見えない歪みがあった。
取引は決裂したが、大古は倉庫を出る際、影から現れた老婆に呼び止められる。
「大古さん…孫の就職祝いに」と彼女は震える手でオメガのレプリカを差し出す。「中古店で正規品と…」
大古が文字盤の「Ω」マークを撫でる。ロゴの曲線が0.1ミリだけ太い。
「お気持ちは分かりますが」と彼は老婆の手を包み込む。「就職式でバレたら、お孫さんが悲しみますよ」
老婆が去った後、闇市のブローカーが近づいてくる。
「あの婆さん、三ヶ月貯金したんだぜ?情けをかけてやれよ」
大古はライターをカチリと鳴らす。
「偽物を本物として渡すことが、本当の情けか?」