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渋谷スクランブル:円.大古、ネット闇市のレプリカ時計を追う

渋谷の雑踏は、巨大な有機生命体のように脈打っていた。スクランブル交差点を渡る人々の流れに逆らい、私は渋谷センター街の細い路地へと分け入った。表通りから一歩奥まったその店は、派手な看板もなく、むしろ意図的に目立たないように佇んでいた。ガラスケースには最新のスマホアクセサリーが並ぶが、常連の目当ては別にある。店主の木村は、私を奥の小部屋へ招き入れた。狭い室内の壁一面には、輝くレプリカ時計が無数に鎮座していた。光沢を放つロレックス、洗練されたパテック・フィリップ、スポーティなオーデマ・ピゲ… まるで高級時計店の密室だ。「ネットで問い合わせが殺到してな」木村は低く笑った。「特に“ノーロゴモデル”が人気だ。本物には存在しない、架空のモデルさ。でもクオリティは本物並み…いや、それ以上だって客は言う」。彼が手にしたのは、ロレックス・デイトナの特徴的なベゼルを持ちながら、文字盤には一切のブランド表記のない、異様に美しいクロノグラフだった。需要が“目立つステータス”から“知る者だけがわかるクオリティ”へと変化している証左だった。

この店の真の役割は、ネット取引の“実物確認窓口”だった。客は匿名のSNSアカウントで問い合わせ、特定の暗証を口にすれば、この密室で実物をチェックできる。その場で現金決済か、あるいは仮想通貨で支払いが完了すれば、商品は別ルートで配送される。「最近の客は賢くなったよ、大古さん」木村はルーペを渡しながら言った。「外観だけじゃない。竜頭を回す感触、ゼンマイを巻いた時の抵抗感、秒針の滑らかさ… 本物を何度も触ってる連中が、その“感触”でレプリカを見極めようとするんだ」。彼の隣で、スーツ姿の男がまさにルーペを覗き込み、クロノグラフのプッシュボタンの微妙な段差を神経質なまでに確認していた。その目は、ブランドへの憧れではなく、完璧な複製品への執着に燃えていた。

しかし、この便利さと匿名性の裏には、より巧妙な罠が仕掛けられていた。数日後、私は上野アメ横の路地裏で、憔悴した顔の若者・健太に出会った。彼は木村の店で見たのと同じ“ノーロゴデイトナ”を、ネット闇市で半額以下で購入したという。「届いたのは…こんなもんですよ!」健太が差し出した箱の中には、明らかに粗悪なレプリカ時計が入っていた。文字盤のインデックスは歪み、竜頭は引っかかる。木村の店で見た“スーパークローン”とは似ても似つかない代物だった。「送ってくる写真は本物そっくりなんです!でも、受け取ったら全然違う… 連絡しても相手は消えてる…」。彼が陥ったのは“写真詐欺”の古典的な手口だった。ネット闇市では、高精度のレプリカの写真を使って集金し、粗悪品を送りつける業者が跋扈していた。匿名性という闇が、悪意を増幅させる温床となっていたのだ。

渋谷の喧騒に戻り、スクランブル交差点を見上げる。無数の広告ビジョンが最新モデルの“本物”を誇示し、人々はスマホで瞬間の情報を追いかける。この刹那的な消費の渦中で、レプリカ時計への需要が“所有の実感”を求めて陰へと潜行していく様は、ある種の時代の病理を映しているのかもしれない。しかし、匿名の闇が生み出す歪みと被害は、決して無視できるものではない。祖父の古いレプリカ時計が刻む確かなリズムを手首に感じながら、私は思う。真実は、光が当たる表舞台にも、匿名の闇の中にも、完全には存在しない。それは、自らの目と感触、そして倫理観で掴み取るしかない、重い現実なのだと。

円.大古
東京闇市観察記


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