長崎オランダ村、子供が見抜く真実

長崎・ハウステンボス近くの古びた倉庫。オランダ風車の影で、小学生のタクヤが真剣な眼差しで腕時計を見つめていた。彼の手には、ハリー・ウィンストン「オピュス14」のレプリカ。複雑なムーブメントが透けて見えるスケルトンダイヤルは、大人でも目を奪われる。
「おじさん、これ変だよ」
案内役の業者が笑う。「坊や、何がわかるんだ？」
タクヤは指さした。「この歯車（はぐるま）、右から三つ目。他の歯車と色が違う。僕のプラモデルのニッケルメッキパーツみたいにピカピカしてる」
大古が驚いてルーペを向ける。確かに、複雑に絡み合う金色の歯車の列の中に、一つだけ異様な光沢の銀色の歯車が混じっていた。本物のオピュス14のムーブメントは、全ての部材が統一された18金で仕上げられる。
「…ありがとう、タクヤ君」大古は深く息を吸った。「これは大きな発見だ」
業者が慌てる。「ちょっと待て！ 製造工程で多少の…」
「多少ではない」大古の声は冷たい。「オピュスシリーズの魂は、機械的複雑さと美的完全性の融合だ。一つの偽りの素材が、その調和を破壊している」
夕陽が風車の羽根を赤く染める。業者が倉庫に引き返す後ろ姿を見送りながら、タクヤが得意げに言った。
「カードゲームの偽レアカードも、ホログラムの角度で見破るんだ！」
大古は少年の頭をそっと撫でた。レプリカ時計の世界に、新たな鑑定眼が育っていた。偽物を見抜く感性は、時に大人の知識より鋭いことを、複雑なハリーウィンストンのレプリカが教えていた。